有田あんの記録

劇団鹿殺し劇団員、兼 野生児童主宰です。

出産するって当たり前じゃないんやで。

「妊娠して、出産するって当たり前じゃないんやで。」虐待のニュースを見る度、この言葉が頭を過る。

突然ですが、私は4人兄弟です。上から男、男、女、女。ちなみに私は2人目の女、末っ子です。そんなバランス絶妙な有田家は、最近ベビーブームだ。先週、2番目の兄に1人目の子供が産まれた。1人娘がいる姉のお腹には2人目の子供がいる。5月に産まれる予定だ。有田家の家族ラインでは毎日幸せいっぱいなやりとりが20件も30件もされている。私の朝は、姉の娘の天使のような動画をみることから始まる。最高に癒される!

姉は私から見るととっても理想的な母親である。離乳食、子供の衣服、玩具まで手作り。食事は栄養バランスよく、見た目にもこだわる。しつけは甘やかしすぎず怒りすぎず良い塩梅。とにかく、子供への愛をめちゃくちゃ感じる。恥ずかしいが、私もあんな母親になりたいな、と思う。

そんな姉が、年明け「切迫流産」をした。
その言葉の鋭さに、家族全員緊張が走った。

不安すぎて私はすぐに調べて家族ラインに流した。切迫流産とは、妊婦自身に腹痛や出血などの辛い症状はあるが、お腹の子供は無事ではあるらしい。特に12週を超えたあとの切迫流産では安静にしていればその後安全に子供を産める可能性もあるらしい。要は、危険な状態ではあるが、赤ちゃんは生きているという事だった。

それまで大きいお腹をかばいながらも娘とよく実家を訪れていた姉は絶対安静を強いられ、代わりに母が娘の世話をすることになった。東京にいる私は、ただその様子をラインで見守ることしかできなかった。ラインが来る度に必ずすぐに安否を確認した。泣けてくるほど苦しかった。

余談だが、10年ほど前、1番上の兄は1人息子を謎の急死により亡くしている。まだ8歳だった。
有田家全員が心底傷ついた日だった。今でもその訃報を告げられた時の場所、景色、それを告げた父の声を鮮明に覚えている。思いだすと胸が張り裂けそうになる。

2度もあの感覚を味わうのは耐えられない。家族全員が同じ思いであることは間違いなかった。

身内贔屓かもしれないが、有田家はとても家族愛の強い家族だと思う。私達は全力でお腹の子の命を守るために一丸となった。幸い、姉の旦那さんのご家族はとても優しく、旦那さん、旦那さんのご家族、うちの母、が姉の代わりに家事、育児を担当、姉の家に行けない家族メンバーはラインや電話で姉を支えた。

姉は徐々に体調を戻し、自力で動けるようになるまでに回復した。その報告を受けた時、心底〝神様っているかもしれん。″と思った。

だが、その後も姉は12000人に1人がなる可能性のある胎児胸水を患ったり、肺炎になったりと幾度に渡って危険にさらされた。姉はその度にお腹の中の赤ちゃんを守るための対策を必死に考え、実行した。私たち家族も協力できることを考えた。

「妊娠して、出産するって当たり前じゃないんやで」

切迫流産を乗り越えた時、姉が私に言った。
ハッとした。私は今まで、きっと何も分かってなかった、分かっているつもりだった、と思った。妊婦である姉に言われたその言葉はずっしりと私の心に響いた。

世の中に溢れる幼児虐待のニュースを見ると、悲しみと苦しさでいっぱいになる。私には当事者たちの家庭事情も、今までどんな辛いことがあったかも分からないから何ともいえない。だが、いつも姉の言葉が頭をよぎる。

子供は奇跡の賜物。子供の命を守り抜いた母親、あるいはその家族自らの手によって傷つけられたり、失われたり。そんなニュースが一回も流れることのない世の中になってほしいと心底思う。

出産予定日まであと一か月。
絶対最後まで守り抜きたい。赤ちゃんも。姉も。